8月の千葉に続き、9月には名古屋で観測史上最大の雨が降りました。記録更新が続くこと自体が何を示しているのか、統計から考えます。
9月8日の午後、名古屋で記録的な大雨が降りました。
名古屋地方気象台の観測で、16時53分までの1時間に104.5ミリ。1890年の統計開始以来、最も強い雨です。それまでの記録は2000年9月11日の97.0ミリ、いわゆる東海豪雨でした。26年ぶりに更新されたことになります。
その日の朝の予想は1時間70ミリでした。実際にはその1.5倍が降りました。
地下鉄栄駅では階段を伝って改札付近まで水が流れ込み、栄の地下街にも雨水が入りました。市営地下鉄は全6路線が運転を見合わせ、市バスは終日運休。名古屋市は市として初めて「緊急安全確保」を発令し、避難指示を含めると対象は約198万人にのぼりました。
名古屋市内の知人からも、ずっと外で警報が鳴っていると聞きました。
一か月前にも、同じことがありました
8月13日、千葉県で線状降水帯が相次いで発生し、24時間の降水量が350ミリ前後に達しました。8月ひと月分の3倍にあたる量です。10人が亡くなり、約1500棟が浸水しました。
そのときも「観測史上最大」と報じられました。
ひと月の間に、二度。しかも、どちらも異なる型の記録です。
千葉は降り続いた量が記録的でした。名古屋は1時間あたりの強さが記録的でした。前者は川が溢れ、後者は地下と道路に水が入りました。同じ「豪雨」という言葉でくくられますが、災害としての性格は違います。
今回、私が引っかかったのはそこでした。個別の災害の大きさより、別の型の記録更新が短い間隔で続いていることの方が気になったのです。
統計を見ると
気象庁は、全国約1300地点のアメダスで観測された降水の記録を1976年から蓄積しています。そこから、いくつかの数字が出ています。
1時間に50ミリ以上の「非常に激しい雨」。最初の10年間(1976〜1985年)の平均は年173.8回でした。2007〜2016年の平均は232.1回。約1.3倍です。
1時間に80ミリ以上の「猛烈な雨」。同じ期間で10.7回から17.9回へ、約1.7倍。
1時間に100ミリ以上では、2.0倍に増えています。
ここに規則性があります。雨が強いほど、増加率が高い。 気象庁の報告書も「強い雨ほど頻度の増加率が高い」と明記しています。
つまり、雨全体が均等に増えているのではありません。極端なものほど、増え方が急なのです。
なぜ「強い雨ほど」なのか
前回の記事で、空気が抱えられる水蒸気の量は気温で決まると書きました。気温が1℃上がると、その最大量は約7%増えます。クラウジウス・クラペイロンの式による関係です。
ここから先が今回の話です。
大気に含まれる水蒸気が7%増えたとき、雨は7%強くなるわけではありません。
雨は、雲の中で水蒸気が集められ、まとめて落ちてくる現象です。集める範囲が広いほど、また上昇気流が強いほど、一度に落ちる量は増えます。もともと多くの水蒸気を含んだ大気では、その集約がより効率的に働きます。
結果として、短時間の強い雨は、水蒸気の増加率を上回って強まることが観測と数値実験の両方から示されています。7%の水蒸気増加に対して、極端な短時間降水は2倍程度の割合で強まる場合があると報告されています。
弱い雨はさほど変わらないのに、強い雨だけが際立って強くなる。統計に表れている「強い雨ほど増加率が高い」という傾向は、この仕組みで説明がつきます。
「時間100ミリ対応」でも水は入る
名古屋には、東海豪雨を教訓とした治水対策があります。1時間100ミリ規模の雨に対応する整備が進められてきました。
それでも今回、地下街や地下鉄駅に水が入りました。
理由のひとつは、川と街の関係にあります。名古屋市上下水道局は8日18時9分、「河川の水位が高くなっており、堤防の決壊を防ぐために、やむを得ず一部の排水ポンプの運転を停止しています」と発表しました。
川の水位が高いあいだは、街に降った雨を川へ排出できません。無理に流せば堤防が壊れます。だから止める。すると、街に水が溜まります。瑞穂区ではマンホールから水が吹き出す様子が撮影されていました。
想定を超えた雨は、想定内の設備を無効化することがある。 これが、備えの難しいところです。
それでも断定はしません
前回も書いたことを、繰り返しておきます。
個別の災害を気候変動のせいだと断定することはできません。 名古屋の8日の雨も、千葉の13日の雨も、その年の気圧配置や前線の位置といった要因が重なった結果です。
言えるのは、傾向としての話だけです。極端な雨の頻度は統計上増えている。その仕組みも説明できる。だから今後も起きやすい。
そこまでです。
ただ、ひと月に二度という間隔を見ると、「起きやすくなっている」という言い方が、以前よりも具体的な手触りを持って感じられます。数字を扱う仕事をしている身としては、その手触りを根拠のない断定に変えないよう、気をつけたいと思っています。
備えについて
前回、自宅のハザードマップを見ましたと書きました。今回は、もう少し具体的なことに触れておきます。
名古屋の被害は、地下に集中しました。地下街、地下鉄駅、地下駐車場、アンダーパス。水は低い方へ流れるので、当然といえば当然です。
企業であれば、サーバー室や書庫、電源設備が地下や1階にないか。名古屋のように「その建物は浸水想定区域外」であっても、周囲の水が集まる地形であれば話は別です。
弊社オフィスは2階にありますが、排水管から水が逆流してきたり、窓が割れて水浸しになるのが怖くなって、電子機器や書類を極力濡れない場所に保管する意識が高まりました。つい書類などは机に置きっぱなしにしていたり、延長コンセントは地面に接してることがありますからね。
おわりに
8月に千葉、9月に名古屋。次がいつ、どこで起きるのかは分かりません。
分かっているのは、こうした雨が以前より起きやすくなっているということ、そして雨が強いほどその傾向が顕著だということです。
みなさんの職場や住まいで、水が最初に集まる場所はどこでしょうか。地図ではなく、実際に建物を歩いてみると見え方が変わるかもしれません。
CCJ株式会社 最高執行役員 数字の向こう側で何が起きているのかを、ときどき書きます。